星 健一
1. 現在までのキャリアを簡単に教えて下さい。
新卒では、繊維機械と産業機械を扱うJUKI株式会社に入社しました。もともと、海外勤務を希望して就職活動を行っており、海外売上比率が高いことが決め手でした。
入社後すぐに駐在が決まりましたが、希望していたアメリカではなく、旧ソ連のモスクワでした。
そこから、旧ソ連で4年、その後インドで4年、シンガポールでも4年、続いてフランスやルーマニアで現地の社長を経験するなど、海外勤務を中心にキャリアを築いてきました。
JUKIには13年ほど在籍し、株式会社ミスミへの転職を機に一度日本に戻りましたが、またすぐにタイに駐在となり、4年ほど現地の社長を務めました。
2008年に、約20年ぶりに本格的に帰国し、アマゾンジャパン合同会社に入社しました。その後は小売部門、マーケットプレイス、BtoB部門などの統括事業本部長を経験し、アマゾンの成長段階に携わってきました。
2020年からは自分で経営コンサルティング会社を立ち上げ、様々な会社のコンサルティングを行っています。ほかにも複数社で社外取締役を務めています。
INFORICHには2024年から社外取締役としてかかわっています。
2. 海外での経験が豊富ですが、一番印象に残っている、あるいは大変だった国はありますか。
一番最初にいた会社のアメリカやヨーロッパ法人は、日本人も多く、現地法人の規模が大きかったのである意味、働きやすかったのではないかと思います。
しかし、私が駐在していた中でもインド、ルーマニア、フランスは、本社からの派遣は私、一人でとても小規模な拠点でした。
特に、インドでは、販売網構築業務に加え、会社登記、銀行口座開設、従業員採用と教育、経理、人事など全部を自分でやりました。当時のインドはまだ電気や水道などインフラも整っていなかったので、駐在していた4年間は本当に大変でした。
3.INFORICHも海外展開を進めています。現状や進め方、スピード感についてどう見ておられますか。
海外進出には、現地法人設立、合弁会社設立、フランチャイズ展開、M&Aなどさまざまなパターンがあります。
国ごとの規制や競合状況、パートナー企業の有無によって最適な進め方が異なります。
INFORICHは、オーストラリアのM&Aや、台湾のフランチャイズ運営企業の買収、シンガポールやタイなどでのフランチャイズ運営、イギリスでの現地法人設立など、各マーケットごとに適した方式を選んでいる印象です。
臨機応変に、うまく進めることができていると思います。
スピード感については、やみくもに展開数を増やすのではなく、M&Aを実施したらそこが上手くいってから次を行う、というように、丁寧に進めていくことも重要です。
4.海外子会社が増えている中で、 子会社管理やガバナンスの観点から課題であると感じていることはありますか。
自分たちでゼロから現地法人を立ち上げれば自社の仕組みを簡単に持ち込めますが、フランチャイズやM&Aの場合は現地企業の文化や仕組みが残ったままになるため、ガバナンスやビジネスモデルの統一がとても難しいと思います。
今の規模であれば本社の管理部門で管理ができますが、今後さらに展開エリアが増えていくと、それも難しくなってきます。
同一のERPの導入や統一人事制度、人材交流など、セントラルな仕組みによる一元管理が必要になってくるでしょう。
海外進出のパターンが増えることも、管理を難しくする要因になります。
最も管理しやすいのは現地法人です。逆に、資本が入らないフランチャイズや販売代理店、そして出資比率の低い合弁会社の管理は経験上非常に難しいです。
契約を守るよう求めるしかなく、主体的なコントロール手段がほとんどありません。
M&Aも、現地任せになるとガバナンスが効かず失敗しやすいと考えています。
その会社の文化を変える覚悟を持って、対応していく必要があると思います。
5.取締役会についてはどう感じていらっしゃいますか。
事前ブリーフィングを積極的に実施し、議論できている点は良いところだと感じています。
一方で、社外取締役への報告、お伺い形式になってしまう場面があることは気になっています。
社内取締役は、管掌範囲外の事柄についても自分ごととして捉え、積極的に議論に参加する意識を持つことが大切だと思います。
6.今後のINFORICHの経営課題と、期待していることを教えて下さい。
属人的なオペレーションから脱却することが必要だと考えています。システム化・自動化の更なる推進と、全社レベルでのデータ基盤の整備が重要です。
経営や現場判断が「データドリブン」で行えるよう、データを一層活用する段階に来ていると思います。
会社の成長とともに組織は変わり、どのような人に働いてほしいかも変わっていきます。
その際、企業のMissionやValueを核に採用や人材育成を行い、社内に企業文化を浸透させていくことが極めて重要だと思います。
特に、育成にはもっと目を向ける必要があると感じています。会社のフェーズ的にも、今いる社員の育成と、これから入る社員の育成に力を入れていくべきではないでしょうか。
採用が難しいと言われる昨今において、成長のステージと企業文化にフィットした人材を迎えることは簡単ではありません。
そのためにも、売上の拡大だけではなく、ブランドの認知度も高めていくべきだと思います。会社名もサービス名も、双方の認知度とイメージの向上に取り組んでいってほしいと考えています。